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東京高等裁判所 昭和58年(ネ)792号 判決

控訴人 中央観光事業株式会社

右代表者代表取締役 槁本義輝

右訴訟代理人弁護士 竹原孝雄

蜂須優二

被控訴人 ホーマット株式会社

右代表者代表取締役 松村二郎

〈ほか七名〉

右八名訴訟代理人弁護士 田宮甫

堤義成

齋喜要

坂口公一

鈴木純

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり当審における控訴代理人の主張を加えるほかは、原判決の事実摘示「第二 当事者の主張」と同一であるから、これを引用する(但し、原判決三枚目表八、九行目の「それぞれそれ」を「それぞれ」に、同裏末行の「付帯請求日」を「付帯請求日欄」に各訂正する。)。

(当審における控訴代理人の主張)

本件規則七条但書は、不可抗力の発生及び理事会の決議があった場合には、会員資格保証金の返還期限の延長ができることを定めているが、これは、一方では、ゴルフ場会員権の募集はゴルフ場完成前にされるものであるところ、ゴルフ場の完成ということには不確実な要素が内在し、会員募集の際予定した完成時期に完成することが殆どないという一般的事情が存在し、また、他方では、ゴルフ場完成前に入会する会員は、右のような事情を承知のうえ、将来のゴルフ場開場の際の利益(会員権価額の高騰)と開場遅延ないし開場不能による不利益とを勘案して、多分に投機的立場で、開場後に比較して安い預託金で入会するという事情が存在することによるのであるから、右規定は十分に合理的なものである。更に、右規定(七条但書)については、不可抗力事由に匹敵する場合に限って会員資格保証金の据置期間を延長することを理事会が決議することができると運用上も取り扱っているのである。すなわち、本件ゴルフ場敷地の売主である訴外高松山開拓農業協同組合は買主たる控訴人に対しゴルフ場の建設に協力すべき関係にあり、右敷地の所在地たる山北町及び神奈川県農政部も高松山開拓地の開発に好意的であり、神奈川県農政部はゴルフ場建設を認可する旨明示していたのであるが、昭和四八年になって態度を変え、ゴルフ場の建設を認可しない意思に傾いたので、控訴人は右組合、山北町と協力して努力した結果、ようやく昭和五一年一〇月神奈川県議会は高松山開拓地の開発を認める決議をするに至った。しかし、このような経過を辿ることは当初に予期できなかった不可抗力的事由というべきものなので、本件クラブの理事会がした前記据置期間を延長する決議は、理事会に与えられた権限の範囲内の行為であって有効である。そのうえ、本件クラブの理事会は、右決議に際しては、他のクラブの利用ができるよう代替的措置も講じて、会員の一方的な不利益にならないよう配慮した。

三 《証拠関係省略》

理由

請求原因事実及び抗弁1の事実は、いずれも当事者間に争いがない。抗弁2の事実は、《証拠省略》を総合して認めることができ、右認定に反する証拠はない。

そこで、再抗弁について判断する。前記のとおり被控訴人らが本件クラブに入会する際、本件預託契約をするとともに本件規則を承認したものであるから、本件規則は被控訴人らと控訴人の間で結ばれた本件クラブの入会契約の内容となっているものということができる。そして、本件規則七条但書により本件クラブの理事会は本件預託金の据置期間を延長する決議をすることができることになっていることも前記のとおり当事者間に争いない事実であるが、弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第一号証によれば、本件クラブの理事長には控訴人の代表取締役が就任し、理事は控訴人が選任委嘱し、理事長が理事会を招集し議長となるものであることが認められる。そうすれば、理事会は事実上専ら控訴人の意向に副って運営されることになることが推測される(このことは《証拠省略》によっても肯定できる。)のであるが、本件預託金の据置期間を延長することは事柄の性質上前記入会契約の重要な内容に関するもので、殊に被控訴人らにとっては極めて不利益な事項といえるから、控訴人が契約締結後に本件規則七条但書の規定の存在することを根拠として、一方的に随意に変更できると解すべきはない(民法一三四条参照)。すなわち、本件規則七条但書の趣旨は、契約には予期しえなかったような特別の事情が発生したため本件預託金の据置期間を延長することが合理的で何人にも是認できる場合に、前記入会契約の本旨に反しない範囲で据置期間を延長する権限を理事会に付与したものと解すべきである。

前記のとおり、本件クラブの理事会は、本件預託金の据置期間が預託の日から五年間と定められていたのをゴルフ場開場まで延長する旨決議したのであるが、控訴代理人も一般論としては認めているとおりゴルフ場の開場は不確実なものであって、開場が最終的に不能となることもありうるものであり、理事会が右決議をした際本件ゴルフ場の開場が相当期間内に確実であったと認めるに足りる証拠はなく《証拠省略》によれば、本件ゴルフ場の開場は、当初昭和四九年七月と予定され、その後昭和五一年に延期されたが、結局実現しなかったことを認めることができ、前認定の理事会が本件預託金の据置期間を延長する決議をした昭和五二年一〇月一三日からでも現在までに六年余を経過して、なお本件ゴルフ場が開場されていないことからも、右決議をした際開場が相当期間内に確実であったのではないことはうかがえる。)、右決議は、一方的に本件預託金の返還を不確実な事実の発生にかからしめるもので、前記入会契約の本旨に反するものといわなければならない。以上に説明したところにより、理事会のした本件預託金の据置期間の延長の決議は、本件規則七条但書により理事会に与えられた権限の範囲を逸脱しているので、効力がないと判断する。なお、控訴代理人は、訴外高松山開拓農業協同組合との本件ゴルフ場敷地の売買契約にまつわる事情を云々するが、右事情は天災地変その他の不可抗力の事態ないしそれに準ずるものではなく、理事会の前記決議を正当化するものでないことは明らかであり、また、控訴代理人は、前記決議に際して他のクラブの利用を認めるという代替的措置を講じたと主張するが、《証拠省略》によれば他のクラブの利用はできないことが認められるので、右主張は右理事会決議が無効であるとの前記判断を左右するものではない。

してみれば、被控訴人らの本訴請求は正当であって、認容すべきものであるから、趣旨を同じくする原判決は相当である。よって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木重信 裁判官 加茂紀久男 大島崇志)

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